2012/07
幕府顧問 ウイリアム・アダムス君川 治


[我が国近代化に貢献した外国人19]


 伊東港のなぎさ公園近くには、ウイリアム・アダムスの胸像と建造した船のモニュメントがあり、大川が港に注ぐ地に造船記念碑がある。
 日本の洋式造船の最初はウイリアム・アダムスが徳川家康の命で、1603年に伊東で建造した80tと120tの帆船といわれている。建造されたサン・ヴェナ・ベンツーラ号は太平洋を横断してメキシコまでの航海に成功しているから、技術もしっかりしていたと思われる。
 幕府は鎖国令に伴い海外渡航を禁止し、1635年には大型船建造を禁止した。そのためウイリアム・アダムスの洋式造船技術は伝承がなされなかった。

 三浦按針は本名をウイリアム・アダムスと言い、1564年にイギリスのケント州ジリンガムで生まれた。少年時代の12年間を造船工として働き、成長して海軍に入り航海長や船長をつとめた。のちにオランダのファン・ハーヘン会社の東洋探検船隊に加わり、リーフデ号の航海長として1598年に東洋に向った。
 慶長5年(1600年)、台風に遭い生き残った乗員24名と共に豊後の国(大分県)臼杵に漂着した。徳川家康は三浦按針を高く評価し、政治・外交顧問として重く用い、江戸日本橋に屋敷を、この地逸見村に250石の領地を与えて厚遇した。三浦の姓はこの三浦の地を領地としたことにより、按針の名は水先案内人を当時按針と称していたことによる。
 このころの按針は家庭的にも恵まれ、江戸日本橋大伝馬町の名主馬込勘解由の娘を妻とし、ジョセフとスザンナの一男一女をもうけた。
――金沢八景・按針塚の説明板より

日本各地に名を留める航海者ウイリアム・アダムス
 宣教師たちを除けばウイリアム・アダムスは、日本で活躍した最初の外国人といえるだろう。
 江戸時代、平戸に始まり長崎出島で活躍したオランダ商館の人たちは我が国に大きな影響を与えた。これをスタートさせたのはウイリアム・アダムス、日本名を三浦按針という。彼の果たした仕事は計り知れないほど大きなものであった。
 日本橋三越の向かい側に安針通りがある。これは如何にと思って歩いてみると、少し入った所に三浦按針屋敷跡の碑が立っている。碑の説明によると、徳川家康の外交や貿易の顧問として江戸に迎えられたアダムスはこの地に屋敷を賜り、士分に取り立てられた。この地は昭和の始めまで按針町と呼ばれていた。
 ウイリアム・アダムスに因んだ地名は神奈川県の三浦半島にもある。品川から京浜急行線に乗って金沢八景の少し先に按針塚駅がある。駅から急な坂道を登って按針台の高層住宅を抜け、更に山道を登ると見晴らしの良い高台の公園に出る。ここに三浦按針夫妻の墓、按針塚がある。

日本に漂着し家康に重用される
 ウイリアム・アダムスは若い頃は造船工として働いた。その後、航海士、船長として英国海軍や貿易会社に勤務した。
 オランダの東洋貿易会社が募集した航海士に応募して5艘の船団に乗り組み、1598年にオランダのロッテルダムを出港した。南アメリカ大陸南端を周る航路はマゼラン海峡が難所で、日本に漂着したのはアダムスが乗り組んだリーフデ号だけだった。出港の時の船員110人は漂着時にはたった21人になっていた。
 当時はポルトガルとスペインの宣教師が日本に滞在しており、アダムスらの取り調べは彼らが通訳を担当したが、大坂でアダムスを接見した徳川家康はオランダ・イギリスとスペイン・ポルトガルとは交戦状態にあることに気付き、通訳を堺の商人に変更した。
 リーフデ号は交易のために大量の武器を積んでいたので、幕府は武器と乗組員を江戸に移送し、破損を修理したが、その回航途中で暴風雨のため難破してしまった。乗組員に敵意のないことが分かると、幕府は武器を買い取り、船員たちは自由の身になり、帰国の船を求めて、当時の貿易港平戸に向かう。しかし、関ヶ原の戦いに大砲の指導者として選ばれたヤン・ヨーステンと航海長ウイリアム・アダムスは引き留められてしまう。
 ヤン・ヨーステンは幕府砲術顧問として屋敷を賜り、屋敷付近は彼の名に寄せて八代洲河岸と呼ばれた。現在の八重洲の地名の起こりである。彼は朱印貿易に従事した。八重洲地下街にヤン・ヨーステンの胸像がひっそりと置かれている。
 ウイリアム・アダムスは好奇心旺盛な家康に重用され、海外情報の指南の他、数学・天文学などの知識で信用を得た。ポルトガルやスペインのように耶蘇教布教の下心がないので、平戸貿易も1609年からはオランダ商館が中心となった。初代オランダ商館長ヤックス・スペックスを支援したアダムスは、家康からイギリス貿易の許可を得ていたが、イギリス商船はなかなか来日しなかった。


君川 治
1937年生まれ。2003年に電機会社サラリーマンを卒業。技術士(電気・電子部門)




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